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検証 - Protocols, Not Platforms: A Technological Approach to Free Speech

2024-04-27
Abstract
Protocols, Not Platforms: A Technological Approach to Free Speech の検証 (2024-04-27 段階)

前置き

本記事は、Mike Masnick 氏による、

Protocols, Not Platforms: A Technological Approach to Free Speech Altering the internet’s economic and digital infrastructure to promote free speech

にて提案・予見されているプロトコルベースのシステムの特徴・利点が、2024年初頭段階にて実現されているか検証を試みるものです。

上記の記事が投稿されたのが2019年8月です。そこから既に5年近くの時間がたちます。このタイミングで、同記事で述べられていることが実現したのか?近い未来何が起こるか?考えてみるのも面白かろう…というのが本エントリのモチベーションです。

とはいえ、オープンなプロトコル上で動くモダンなシステムで、分かりやすく検証ができるものは見られないものです。ここでは、検証の対象を Social Media である、Bluesky と Nostr にとどめます。

本来であればプロトコルベースのシステムの最大の成功者は Bitcoin や Etherum のような暗号通貨なのかもしれません。しかしながら、これらはプロトコルベースのシステムを構築する際の基盤であったり、機能を提供するなど、一段低いレイヤーで機能しているように思えます。また、Mikes 氏の主題にもある言論の自由を論じる際に暗号通貨はソーシャルメディアと同列に扱うのは難しいと考え、比較対象から外しています。

比較

以下の視点から評価を試みます。

  • 非中央集権性 - 非中央集権的な運用が可能・実施されている
  • プロトコルの独立性 - プロトコルがシステム運用主体から切り離されている
  • プロトコルの変更の透明性 - プロトコル変更の意思決定に透明性がある
  • コンテンツフィルタリング - コンテンツのフィルタリングをユーザーが担っている
  • ビジネスモデル - システムの持続性のための仕組みがある
  • ユーザーデータ - ユーザーデータのコントロール主体がシステムから切り離されている、ユーザーが制御可能である
  • セキュリティ - ユーザーデータののぞき見・改ざん・なりすましへの対策がある
  • アプリの多様さ - 多様なクライアントが存在する・サードパーティーに開かれている
  • ユーザー・コミュニティ - コミュニティ活動が活発である、多様である
評価項目 Nostr Bluesky
非中央集権性 Good😊多数のリレーがコンテンツとユーザー情報を保持することで、運用の一極集中を避けているとともに、冗長性も確保している。1 Good😊 Personal Data Server: PDS がデータを保持する。データは Relay がクライアントアプリまで中継する。Labeler サーバががモデレーションを Feed Generator サーバがコンテンツの選択を助ける。それぞれの仕組みは分散している。それぞれのサーバはアプリ毎にに選択可能。2
プロトコルの独立性 Good😊 Nostr Impelementation Possibilities により仕様が管理される。3Github 上での開かれた管理。リポジトリの管理は少数メンバーによる。システムの中心的な運用組織は存在しない。 Neutral😑 米国の公益法人 Bluesk, PBC が「AT Protocol」として仕様を公開している。4 現状 Bluesky がシステム最大の運用者である。そういう意味ではプロトコルの管理と最大運用者が切り離されているとは言えない。
プロトコル変更の透明性 Good😊 Github 上の Nostr Implementation Possibilities による管理。Github 上でできる範囲では、だれでも変更プロセスの閲覧・参加が可能。 Neutral😑 Bluesky, PBS 一社による管理。同社が公開・展開する範囲で、変更プロセスの把握が可能。
コンテンツフィルタリング Neutral😑 NIP に Reporting (NIP-56)5 として、不適切である、注意が必要な投稿に対する報告のプロトコルが備わっている。また、自分自身のコンテンツに対して Sensitive Content/Warning 属性を付加し、フィルタリングやゾーニングを助けることが可能(NIP-36)6。報告はリレーに対して行われるが、リレー自身が自動的にフィルタリングすることは推奨されていない。報告された情報は、違法なコンテンツの検出や、リレーの運用ポリシーに基づいたモデレーションには使うことができる。 Good😊 クライアント(Appview)は複数の Labeler からモデレーションに関する情報を取得することができる。フィルタリングはクライアントが主体。Labeler はどちらかというと、ユーザー個々によるフィルタリングの仕組みというよりは、コミュニティにその機能を持たせる仕組み。
ビジネスモデル Neutral😑 ライトニングネットワークによるsatsの交換を積極的に活用した、利便性のあるサービスの販売が行われている。例えば、より便利なリレーや、独自リレーのホスティングサービス等である。Nostr と親和性の高いストリーミングサービスを sats による支払いで可能にするサービスが存在する。NIP には ライトニングワレット間で sats を授受する仕組みが定義されているが、現在は「投げ銭」的につかわれている状況。例えばNostr上のコンテンツを解放するために sats による支払いを必用とするような活動や実装あまり見られない。これらはビットコインと親和性の高いコミュニティに属するユーザーが多いため、成功裏に取り入れらているように見える。NIP の管理者や、主要なクライアントの開発メンバーに対する金銭的サポートは、Opensatsなどの財団から実施されている模様。 Bad😞 現在、Bluesky, PBC は公益性を評価され、法人としては「C Corp(法人課税がオーナーから分離した企業)」の状態にある。Bluesky, PBC は出資者を明かしていない。出資者に投資回収のロードマップをどのように描いているか外からは見えない。マネタイズは皆無という分けではなく、Bluesky 上のドメインの販売を行っている。
ユーザーデータ Neutral😑 NIP自体にユーザーが独自にデータを保持するような仕組みは存在しない。現状ほとんどのユーザーは自身のコンテンツ保持をリレーに頼っている状況と考えられる。しかしながら、ユーザーの発行するコンテンツやリクエストは、すべてユーザーの秘密鍵で署名する仕組みとなっており、署名はユーザーデータを参照する際に必ず照合するため、投稿などがユーザーに属していることの検証は容易であり、改ざん等の問題は起きない。問題として、一旦複数のリレーに情報を放流したら、以降、削除等の情報の制御は難しいと考えられる。 Good😊 ユーザー個人もしくはコミュニティベースの PDS: Public Data Sever にデータを保存する。Bluesky や単一の運営団体に頼る必用がないので、独立性が確保されているといえる。また、サーバー間でデータを移動するための仕組みが仕様化されている。上記からユーザーデータ管理の点で、高度な仕組みが用意されていると言える。
セキュリティ Bad😑 Nostr はセキュリティ確保に関する仕組みが少ない。思想として、投稿したものは基本的にリレー間で制限なしに共有されうること、投稿に署名がされるので、改ざんの検出が可能なことが理由として考えられる。しかし、この状況は二点大きな問題があると考えられる。一点は、秘密鍵の管理が完全に個人に委ねられていることである。もう一点はサードパーティがユーザーデータを使おうと思えば、プライバシーやユーザーの意向に関わらず、制限なく使うことができてしまうことである。 Good😊 (私の理解が浅いからだろうか) Bluesky はセキュリティ上の大きな課題を抱えていなように見える。
アプリの多様さ Good😊 仕組みのシンプルさが多様なクライアントを産んでいる。7単にソーシャルメディアのフィードを閲覧するだけでなく、投稿をデータベース的に扱うことによって、例えば、ボードゲームをNostr上に構築したり、スケジュール管理やブログなどの多様なソフトウェアが構築されている。 Good😊 仕組みこそ Nostr に比べると複雑であるが、Blusky, PBC によるドキュメンテーションやサンプルの提示がある。8多くのサードパーティーが独自のクライアント・PDS・Labelerを提供しつつある。9 これらは、Nostr と比べるとソーシャルメディアに特化したシステムがほとんどである。
ユーザー Neutral 😑 米国に大きなユーザーベースを抱えている。ビットコインコミュニティと親和性が高いため、ビットコイン関連のコミュニティイベントと並行する形で、多くのコミュニティ活動やイベントが開催されている。米国以外のユーザーベースはそれほど大きくない模様。コミュニティには、技術的興味から形成されるグループ、ビットコインのコミュニティ、およびアーリーアダプターが集まっている。 Good😊 総数 5.5百万人のユーザーを抱えるとのこと(2024年4月段階)10。Mastodon のユーザー数が およそ 一千万人11とすると、比肩するくらいユーザーが多い。 ユーザーの増加に伴い、コミュニティ活動は目立たなくなってしまった感があるが、サードパーティーが増えつつあることを考えると、開発者たちによるコミュニティによる活動も十分活発と考えらえる。

結論

Mike 氏の予測や提案は妥当であったか?

ソーシャルメディアに関して言えば、氏の予想は妥当だったのではないかと考えます。

プロトコルベースのシステムが立ち上がり、コンテンツのコントロールをよりエンドユーザーに委ねる流れができていると考えます。Bluesky はその仕組みを実現するために、比較的複雑なシステムを設計することになり、一方 Nostr は極めてシンプルな設計であるが故、セキュリティ上の課題を抱えているように見えます。これも氏の記事で言及されていたと考えます。

Nostr はビットコインコミュニティを取り込み、マネタイズの議論が盛んです。また、ライトニングネットワークの活用も盛んです。これは、氏の予想した、トークンをシステムに組み込むことで、マネタイズを行う例の実践であると考えます。一方 Bluesky はマネタイズの方針が見えにくいように感じます(一般ユーザーの視点ですが)。仕様も Nostr に比べて複雑で、マネタイズが遅れた場合の運用の持続性に関して心配を感じます。

また本題とは外れますが、Elon Musk氏が Twitter 社を買収したときに、会社としてのコンテンツのモデレーション機能を大幅に切ったことも注目すべきと思います。人員削減の規模は各方面で大きな話題となりました。ソーシャルメディアを運営する企業のモデレーションのコストが大きかった点の傍証であると考えます。

Mike 氏の予測と異なっている部分は?

前述しましたが、それぞれ持続性のためのビジネスモデルがやや分かりにくい点であると考えます。

こちらが明確でないと、議論や技術革新が、尻切れのまま開発がストップしてしまうのではないかという懸念があります。

Nostr の開発は現状ビットコインコミュニティを含む経済的サポートがあり、Bluesky はより公益性の追求に持続の可能性を見出しているように見えます。マネタイズの有無は長期で持続するかの要であるでしょうし、持続性はサードパーティーが参入する際の大きなポイントです。

いずれにせよどちらも立ち上がって間もないシステムです。持続性の判断は早計でまだまだ見守る段階かな…と感じます。

Reference

Protocols, Not Platforms: A Technological Approach to Free Speech Altering the internet’s economic and digital infrastructure to promote free speech